倉山満 世界一わかりやすい地政学の本 感想

 
 待ってました!の倉山先生による、地政学の本です。

 世界一わかりやすいとのタイトルの通り、こちらの本にはほとんど専門用語は出てきません。出てくる用語を簡単に説明すると、

・アクター・・・関係国。最低限の主体性がある国(国家としての意思や能力のない国は数に数えない)
・パワー(大国)・・・発言力のある国。その国のいうことを聞かねば話のまとまらない国。
・パワーズ(列強)
・ヘゲモン(覇権国)・・・パワーズの中で最強。世界を仕切っている国。
・チャレンジャー(挑戦国)・・・パワーズの中でヘゲモニー(覇権)を奪おうと挑戦している国。
・イシュー(争点)
・シアター(場)


 さて、こうやって見ていくと現在の世界はどうなっているのでしょうか?

 現在のヘゲモン(覇権国)はアメリカ、そしてチャレンジャー(挑戦国)が中国ですね。では我が日本は?残念ながらヘゲモンのアメリカは日本を自分の物だと思っていて、それにチャレンジャーの中国が分け前を寄越せと言っている。現在の日本は主体性のあるアクターではなくシアターでしかないという状況です。なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。勿論、先の大戦に敗れたことは大きいですが、本当にそれだけなのでしょうか?

 さかのぼること江戸時代末期。所謂鎖国状態にあった日本。勿論そのころはアクターではありませんでした。しかし、当時の日本人達は地政学をわかっていた。その頃のヘゲモンであったイギリスやチャレンジャーのロシアと最初に交渉すれば飲み込まれてしまう事は自明の理。そんな時にファンタジスタ・ペリーがやってきます。当時のアメリカは日本を飲み込むほど大きくはなかった。しかし、日本とアメリカをあわせれば大国にものを言える程度の国(本当はそこまでではなかったかも)。日本はアメリカと不平等条約を結びます。なぜ日本が不平等条約を受け入れたか。当時のヨーロッパ人の基準では白人、キリスト教が文明、それ以外は非文明。でもアジアに進出するとそうはいかなくなり、そこで文明国と非文明国の間に半文明国というカテゴライズが出来ます。日本はいきなり文明国とは認められないが、非文明国ではまずいから半文明国でとどめて欲しいという意味で不平等条約を受け入れたのでした。

 何しろ当時の国家間の争いは最終的に戦争で解決する。戦争が出来るのは主権国家、すなわち文明国にだけ認められた権利だったのですから。文明国だと認められなければ国際法という仁義を武器に戦うことも認められない、植民地にされ、奴隷化されるのが当たり前という状況だったのでした。

 しかし、当時の日本人は地政学国際法という武器を使いこなします。榎本武揚はバルカン問題にわずらわされているロシアが極東では強く出ることが出来ないと読み、そのタイミングで交渉を仕掛けて千島樺太交換条約を締結します。そして日本は内政では富国強兵策を進めながら、外交では近隣諸国との国境画定を着々と進め、英米に対しては小笠原を確保し、清国に対しては琉球は日本の領土・沖縄であることを示しました。

 日清戦争、日露戦争を勝ち抜き、世界史のアクターになった日本は、第一次世界大戦が終わるころにパワーズ(列強)にのぼりつめています。それがどうして大東亜戦争で敗戦、そして占領されてしまう事になったのか。

 そもそもなぜアメリカやイギリスと戦わなければならなかったのか。アメリカから経済制裁された、ハル・ノートを突きつけられた、でも何が必要だったかというと一番は石油ですよね。それならばインドネシアを押さえれば良かった話。アメリカもなぜ中国に肩入れして日本を敵に回す必要があったのか。日本とアメリカを戦わせようとするコミンテルンの陰謀があったにしろ、それぞれの国のトップが地政学をわかっていればそこまで間違うことはなかったのではないかと思います。

 後知恵だと言う人もいるかもしれません。しかし自国を滅ぼさないためにはあらゆる知恵を尽くすのが当然。歴史に学び、地政学に学ぶ。政治家に期待してもダメ。まずは政治家を選ぶ我々が賢くならなければまともな政治家を選ぶことなど出来ないのですから。

 こちらの本は「はじめに」と「おわりに」がドラえもんの話となっています。のび太は弱いくせにすぐに調子に乗っては痛い目にあうどうしようもない少年。でも映画版のどらえもんのように、のび太が強くなると周りは変わります。現在はアクターではなくシアターになってしまった日本。その日本が変わるためには我々一人一人が賢くなるしかありません。その手助けをしてくれるこちらの本。是非、ご一読を。





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江崎道朗 『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』感想


 いよいよ残すところあとわずかとなってきました。果たして大統領になるのはドナルド・トランプか?ヒラリー・クリントンか?

 いくら考えても日本国民である我々には選挙権があるわけでもなく、その結果はアメリカ国民の意思を受け入れるしかありません。それではこの大統領選のことにあれこれ考えを巡らすのは全く無駄なのか?そんなはずはありません。悲しいことに現在の日本はアメリカに自らの国の安全保障を委ねている状態、誰が大統領になるかは日本にとって大問題です。

 こちらの本は誤解している方もいらっしゃるようですが、トランプ礼賛本ではありません。彼が大統領候補として現れた時は、誰もがトンデモ候補のように扱っていました。今でも日本のマスコミが扱うのは彼の過激な発言やスキャンダルなど。今朝見た日本の世論調査では「トランプが大統領としてふさわしい」と答えた人は、一桁、対する「ヒラリーがふさわしい」と答えた人は70%台でした。しかしアメリカでは一時はヒラリー優勢と言われていたのに、現在はトランプがかなり追い上げている。このことは日本のマスコミ報道だけ追っていても絶対にわかりません。それを江崎先生はトランプの主張や現在のアメリカの状況、戦後アメリカの政治史などからわかりやすく解説します。そこから私達の全く知らなかったアメリカが見えてきます。

 例えば、日本のマスコミはトランプの「メキシコとの国境に壁を建設する」などの過激な発言は取り上げます。しかし、なぜそのような発言が出てくるかの背景を掘り下げている番組はあまり見ません。トランプの言っていることは「移民がいけないのではなく、不法移民がいけない」という極々当たり前のことです。そして、なぜ彼がそういうのか、そしてその彼の主張が熱狂的に受け入れられるのかということの背景に「サンクチュアリ・シティ」の存在があります。

 サンフランシスコに象徴される実質的に連邦法が適用されない都市があり、不法入国者がそこに逃げ込めば、「人権」の名のもとに連邦法を犯してもそれが適用されず滞在することが出来るばかりか運転免許証も与えられるとのことです。それだけでも驚くべきことですが、その不法移民を合法化するための法律を共和党までが準備しているのです。

 日本でも外国籍の人の生活保護などが問題になっていますが、普通にその国に生まれ育って、真面目に働き税金を払っている人にとって、不法に入国し、税金も払わずに生活保護をもらう人達のことをどう思うでしょうか。しかもそれは自分たちが払った税金で賄われているのです。そんなごく当たり前の国民の気持ちを代弁してくれる。現在のトランプ旋風はそこから来ているのではないでしょうか。

 私の今書いた薄っぺらい感想などは誰でも想像できることなのでさておき、大統領がトランプではなくヒラリーになったらもうこの本を読む価値はないのか?全くそんなことはありません。この本の主題は先ほども言ったように、トランプ礼賛ではありませんし、ましてやトランプが大統領になったらどうなるかといった予測でもありません。この本は、マスコミが報じないトランプを通じて、マスコミが報じない「もう一つのアメリカ」を語る本だからです。先日UPした「倉山満 『大間違いのアメリカ合衆国』感想」でも倉山先生が訴えていることですが、大統領がトランプになろうがヒラリーになろうが、大事なことは、「どうなるか」ではなく我々日本人が「どうするか」だからです。

 この読みやすい200ページほどの本に、今まで知らなかったアメリカが描かれています。そして、私達が知らなかった背筋が寒くなるような日本の現実も。自国を自らの意思で守れない。これが主権国家の姿なのでしょうか。しかしながら、我が国を守るために我々がどうすればいいかの様々な示唆もあります。日本を愛する全ての人に是非読んでいただきたい本です。



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Author:yumi
富山市在住。夫と息子、猫2匹と暮らす会社員。

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