増税と政局~「倉山満の3分間スピーチ 増税は間に合わない論のウソ」を検証する ㊦


 「増税と政局」第9弾、「倉山満の3分間スピーチ 第7回 増税は間に合わない論のウソ」検証記事の後編です。

【チャンネルくらら】倉山満の3分間スピーチ 第7回 増税は間に合わない論のウソ⑦


今回のポイント

・増税を延期するには予算編成をやっている同時並行で予算関連法案としてたった一行の予算延期法案を足せばよかった。増税に延期に賛成か、反対かだけを聞くことなので与党が賛成したら一日で通る。
・理想的には1月から毎年国会で予算審議が始まるので予算編成をやっている最中に全体の見積書として歳入が、消費税増税分入らないということが方針が示されていれば全く問題なく予算編成出来る。
・予算関連法案はいつまで成立しなければいけないか。本来の理想形は1月の予算審議の前に予算関連法案が臨時国会で通って、ああ安倍さんが政治決断したんですね、みたいなことやってれば理想。だから9月の段階でもう間に合いませんというのは、もうこの時点で法律論として破綻している。
・予算関連法案は、1月より前に決まってればよいが、1月より後でもいい。予算と並行審議でも総理大臣が予算と言う見積書を決める方針を決めているので予算編成出来る。究極、流れても構わない。予算と言うのは実は予算より多くのものをやってはいけないが減らす分には決まった後でもいい。去年(平成24年)もやった。
・平成24年度予算は4月に5日だけ紛れ込んで決まったが、野田、谷垣、山口、あるいは当時財務事務次官の勝栄次郎などが増税の話ばかりしていたので最も重要な予算関連法案である特例公債法案が11月まで通ってなかった。借金ができないので予算の執行をへらそうとなっていた。それに比べれば12月まで(臨時国会の間)に決まっていたら何の問題はない。あるいは通常国会の間に決まってても問題もない。なんで9月の段階で決まってないからと言って、もう増税するしかないになっているのか。法律論としてここで終了。ところがここで持ち出されたのが政治論。法律論に政治論を持ち込むな。

 施行期限が平成26年の4月1日なので、さすがに通常国会にまで流れ込むといろいろ支障をきたすこともあるでしょうが、延期するということで与党内の調整さえ出来れば、臨時国会内で採決は可能だったでしょう。どう考えても10月では間に合わないということはないはずです。平成26年11月の増税延期決断の後、このようなことで国会が紛糾したとの報道がなかったことを思えば、この時、増税は間に合わないと自民党の議員たちが言いだしたのは不思議で仕方がありません。しかしなぜこのような言説が広まってしまったのでしょうか。

 実は参議院選挙の前に増税延期を言っておかなければならなかった、10月では間に合わないと言っていた人物がいます。高橋洋一氏です。

自民党は参議院選挙の争点から外すのはせこい!「消費税増税スキップ」の判断は10月では遅すぎる 2013/06/03

(記事より引用)

 4月29日付け本コラムで「消費税増税スキップ」を書いた。イギリスでは消費税を増税して景気が低迷していることなど経済的な観点からの意見だが、今回はその法的側面や経済的な補足をしたい。

自民党の高市早苗政調会長は、来年4月からの消費税率引き上げの是非を、安倍晋三首相が今年10月に最終判断するといっている。安倍首相自身も現在のところ「白紙」である」といっている。これは政治家のスタンスとしては正しい。

筆者としては賢明な判断をしてもらいたいが、実は法的には消費税税率の引き上げは、昨年8月に成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」(消費税増税法)で決まっている。

「経済財政条項の激変」とは

 しばしば新聞などでは、景気条項に努力目標として名目3%、実質2%のGDP(国内総生産)の経済成長率が明記され、経済環境が急変したときには増税を見送るといわれているが、それはあくまで政治的な立場からの意見である。

(中略)

第3項によって、増税見送りが可能かのように書かれている。しかし、「経済財政状況の激変」とはリーマンショック時のようなものを想定しているので、政治家が大きな声を上げない限り、予定通り実施されると読むのが正しい。

また、この附則18条は条件にもなっていない。国会審議の過程で修正され、第二項が加わったので、もし消費税率の引き上げで景気が悪くなれば、財政支出で景気支えをするとまでいっている。つまり、消費税増税ありきなのだ。

 このため財務省筋からは、「消費税増税をするが景気が悪くならないように財政支出する」という声が聞こえてくる。増税して使うぐらいなら、増税しなければいいというのが常識だが、「増税亡者」には通用しない。

民間業者のシステム対応は先行している

このようなガチガチの増税法案があるにもかかわらず、昨年9月の総裁選のときから最後の最後まで「増税を実施するかどうかは政治判断」としてきた安倍首相はえらい(他候補は、当然消費税増税するというスタンスだった)。

 ただ、10月まで引き延ばすと、結局、消費税増税になってしまう確率が高くなる。というのは、民間業者はシステム対応などで走り出しつつある。10月になると、もう準備が進んで止まらなくなり、消費税増税してもらわないと困るという状況になる。

 (引用終わり)


 正直言っていわゆる「増税延期は間に合わない論」に民間業者の都合もプラスと言った論調です。以前に紹介したことがありますが、このような発言も高橋氏はしています。

「国会の違憲状態」解消こそがカギ!参議院で歴史的圧勝をした安倍首相は「消費税増税延期」に挑めるか 2013年07月22日(月) 高橋 洋一

(記事より引用)

 第一のシナリオは、消費税増税シナリオだ。安倍政権では、4~6月の経済指標をみて、秋にも消費増税について判断する意向を示しているが、景気の良さを背景にして消費税増税を判断する。ちなみに、4~6月期GDP速報は、一次速報が8月12日、二次速報が9月9日に公表される。それにふさわしい内閣改造を行い、衆参の安定多数をバックに、粛々と国会をこなす。

 消費税増税を止めるためには、その国会で消費税凍結法案が成立しなければいけない。野党がそうした法案を出しても、国会審議すらしないだろう。

実際に与党から消費税凍結法案を出すのは、困難といわざるを得ない。三党合意もあるし、その合意が反故になったわけでもない。参院選でも凍結法案を公約にしていないのだから、常識的には凍結法案を与党は出さないという「判断」になる。

(中略)

 経済政策論では消費税増税ストップは当然だが、第一のシナリオでわかるように政治論からみれば、その実現は困難だ。ねじれ国会は解消したが、政府与党内プロセスがある。自民党税制調査会は、来年度の税制改正作業を9月頃から始める見通しだ。これは通常より約2カ月前倒しだが、消費税増税は当然の話として、増税ストップとはなるはずない。

(引用終わり)

 
 三党合意で、増税するかしないかはその時の政権が決めると言っているのに、なぜ凍結できないのか。凍結まで行かなくても延期することは出来るのではないかと思うのに、「参院選でも凍結法案を公約にしていない」からという不思議なハードルあげがされています。安倍総理はデフレ脱却、景気回復を掲げてずっと戦い勝ち続けてきたのに、それを腰折れさせる消費増税をなぜ凍結を公約にしていなかったからと言って止めることが出来ないのか。

 断言するのは言いすぎですが、永田町に蔓延した「増税決まっている論」の発生源は高橋洋一氏でしょうか。どちらにしても高橋氏の言い分を増税派は利用したのではないでしょうか。

 平成24年度の予算関連法案の成立時期について言及されているのでそれについても簡単に整理しておきましょう。

・平成24年1月24日に第180回国会(通常国会)が開催。6月24日までの予定が9月8日まで延長。
・予算成立は4月5日。
・社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案が平成24年8月10日成立。
・特例公債法案が平成24年11月13日に成立(第181回国会 臨時国会)。


 特例公債法案の採決がここまで遅れたのは消費税の話ばかりしていたのに加えて政争の具にされてしまったからでもあります。

特例公債法案の早期成立を望む~日本版「財政の崖」を回避せよ 2012 年 10 月 18 日 全 7 頁

 しかしこの時はねじれ国会だったのでこのような事態になってしまったと言えます。次の回で、増税国会になってしまったら重要法案が通らなくなるから増税は延期してはならないという話が出るのですが、そちらがどうなったかの検証を致します。

【チャンネルくらら】倉山満の3分間スピーチ 第8回 増税は間に合わない論のウソ 結論


結論

 9月の段階で、増税延期法案が通ってないからもう決まったことです、延期は間に合いません。と言うのは法律論としても行政手続き論としてもまったくの嘘。そこで持ち出したのは政治論。臨時国会が増税法案で一色になったらNSC法案とか秘密保全法案とか内閣人事局法案とか重要法案が全部つぶれる。しかし秘密保全法だのアメリカ大統領みたいに有事の時に動けるようにしようみたいな法案は対決法案。もともと強い安倍内閣ですら継続審議に持ち込めたら御の字。内閣人事局にいたっては第一次安倍内閣が霞が関全体と喧嘩して負けたそのリベンジ法案。増税も延期できないような政権には通せない。だからとにかく実は安倍内閣の政策にしても政局にしても争点は増税を延期できるかどうかだった。
 だから法律論でずーっと言ってて、最後に政治論、しかも単なる政治的脅迫。NSC法案とか秘密保全法案とかを人質にして脅迫して来ただけ。ところが自民党議員の大半はこれにのってしまった。たった一行の一日で審議が済むような法案を間に合わないと判断してしまった。
 全ては「必要は法に優先する」という精神が抜けていた。官僚が決めた法律、手続き、これまでの慣例があったところで国民にとって必要なことを選挙で選ばれた総理大臣が「じゃあそんな法案は変えましょう」と言ったら変えればいい。とにかく頭がいい官僚が決めたこと、これまでの慣例、手続き決まったことには逆らえないという思い込み。そこを突破できないような人には戦後レジームの脱却は無理。基礎的な知識がないと政治家は今後もいいように操られて国民にとって国家にとって必要なことが出来ないと思う。
 チャンネルくららを見ている皆さんは、ただしい知識を持ってください。


 偽りの政治的脅迫にまんまと騙されたのか、それともそれ以外の利権のために財務省の策略にわざと乗ったのか。どちらにしても国民のための政治が出来なくて何のための政治家でしょうか。何とも情けない話です。

 ここで上がっている法案に対して「通ったじゃないか」と言われるかもしれません。そもそも衆参共に連立与党が過半数を超えているので与党内での調整が出来れば法案を通すことは可能なわけですが、なぜ法案を通すことが出来たのか。法案の中身を検証していくことにしましょう。

NSC法案成立、外交・安保の司令塔、年内始動 情報一元化へ2013.11.27

(記事より引用)

NSCは米国や英国など各国の情報機関と緊密に連携して情報交換を行うため、政府は機密を漏らした公務員らへの罰則強化が不可欠と判断。今国会での特定秘密保護法案の成立を急いでおり、26日に衆院を通過させた。

(引用終わり)


 NSCが機能するためには特定秘密保護法の成立が必要だったわけです。その特定秘密保護法は平成25年12月6日に成立しました。

特定秘密の保護に関する法律 説明資料

 この時の国会はそれこそ「秘密保護法」国会になってしまいました。産経と読売を除くマスコミはこちらを一斉に批判し、多くの市民団体が成立反対を叫んでデモを開催しました。映画界では「映画を作れなくなる!」などの批判まで飛び出しました。

 成立した時の各新聞の紙面もこのようになっています。

備忘・秘密保護法成立の各紙紙面~安倍政権・与党への姿勢の違いは紙面にどう表れたのか 2013年-12月-08日

 そして驚いたのは安倍総理が丁寧な説明を行うために記者会見を行った時のことでした。特定秘密保護法の成立に肯定的な産経新聞の阿比留瑠比氏が総理に質問した途端、民法は一斉に中継を中断してCMを流したのです。

安倍総理の記者会見…特定秘密保護法の説明時に民放TVが一斉にCMに入り、中継を中断 → 視聴者が各局へ電凸 → マスコミ「ご意見を承りました」と報道しない理由答えず 2013年12月09日

 マスコミの報道しない自由万歳!国民の知る権利を一番侵害しているのはマスコミですね!

 結局、政権支持低下のためのプロパガンダに散々使われる羽目になってしまった法案ですが、問題はこれがきちんと機能するのかです。これに関して倉山氏は「世紀のザル法」だと指摘してます。

(『反日プロパガンダの近現代史』P156より引用)

 この法案の、急所は、最低刑の規定がないことです。少なくとも最低刑を懲役三年以上にすることにこそ意味があったのです。
 刑法を学んだ人ならご存知の通り、最低刑が懲役三年の犯罪は凶悪犯罪であり、執行猶予が付きません(法律上、付けることができません)。よって、必ず刑務所に入ることになります。これまでは、国家機密を漏洩しても、あるいはスパイが情報を盗んでも、懲役一年執行猶予付き、などということになりかねなかったのです。スパイを捕まえたら国外に逃がさないで日本の刑務所に三年間入れることができます。三年も外部の政界から隔絶されたら、スパイとして使い物になりません。だから、特定秘密保護法を「スパイ防止法」にするならば、焦点は最高刑の厳しさとかそのほかの論点ではなく、「最低刑が懲役三年以上になるかどうか」だったのです。

(中略)

P159より
 この法律が「ザル」である部分をあとふたつ挙げます。
 一つは、「秘密」の指定は大臣が行うということ。自民党という政党は、永遠に自分が与党でいることを前提で物事を決める性癖がありますが、自民党が「最悪の政権」「売国政党」と罵る民主党の大臣が秘密を指定するという事態になったらどうするのでしょう。
 もうひとつは、前節でお話ししたように、「秘密」にはcovertとclandestineがあるのですが、この法案では区別がまったくついていません。
 こんな世紀のザル法のために大騒ぎをして、政権の命綱であるアベノミクスを潰したとしたら……。
 またしても日本はプロパガンダに引っかかったのかもしれません。

(引用終わり)



 用語を簡単に説明すると「covert」は秘密ではありますが、そこに秘密がある事自体がわかっていて、後に公開することが前提のもの。「clandestine」は秘密がある事自体を秘密にしているもので情報公開の対象外のものです。

 つまり、反対していた野党やいわゆるスパイにとっても成立しても痛くもかゆくもない法案だったということです。そもそもこの法案の検討を始めたのは、この時には大反対していた民主党なのですから。

仙谷長官、秘密保護法に意欲 尖閣映像流出2010年11月9日

 そして、やはりキーになるのは公明党でしょう。公明党や支持団体の創価学会が一番批判しそうな法案なのに賛成に回る。特定秘密保護法を戦前の治安維持法と同じくらいの悪法だと言う人がいますが、もし治安維持法と同じような法律だったら、初代会長の牧口常三郎がそれで投獄された過去を持つ創価学会を支持団体に持つ公明党が賛成するはずは無いでしょう。もちろん、法案をきちんと読めばわかりますが、そのようなものでありません。

 そして内閣人事局です。こちらは平成25年の第185回国会(臨時会)で内閣が提出し、翌、平成26年の第186回国会(通常会)で可決・成立しました。

国家公務員法等の一部を改正する法律に対する修正案

 こちらの初人事の評価でこのような記事が上がっています

「内閣人事局」による官邸主導の初人事が霞が関の抵抗に合わなかった理由 2014/7/9

(記事から引用)

安倍首相側近の人事局長就任で政治主導を印象付けた

内閣人事局長の発表寸前まで霞が関は警察官僚出身の杉田和博副長官の就任を信じて疑わなかった。4月に新聞各紙が「内閣人事局、初代局長に杉田和博氏 安倍政権方針」(朝日)「内閣人事局長に杉田氏 政府調整 官房副長官と兼務」(産経)と報じていたことも大きい。杉田氏本人も就任を信じて疑わなかったらしく、発表前に挨拶されたという大物官僚OBもいたようだ。

ところがギリギリまで菅義偉官房長官は「まだ決まっていない」と明言を避けていた。杉田氏に内定していたものを菅氏が安倍首相に進言してひっくり返した、とされているが、反対派を押さえ込むために最後の最後に「だまし討ち」することを決めていたのかもしれない。

加藤氏は安倍首相が最も信用する側近のひとりだけに、初めから「加藤局長」を決めていた可能性は十分にある。安倍内閣はこの人事ひとつで「政治主導色」を印象付けることに成功した。

(引用終わり)


 一件政治主導がうまく行っているようにも思えます。

 ここで、一つ指摘しておきたいのは内閣人事局がなくても首相が強ければ人事に介入できるということです。

集団的自衛権行使容認のための強権的な内閣法制局長官人事は許されない(談話)2013年8月8日

 (記事から引用)

1.政府は本日午前の閣議で、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎駐フランス大使を充てる人事を決定した。内閣法制局は、政府提出の法案や政令案について、憲法や他の法令と矛盾がないかを事前に審査するほか、憲法や法令の解釈で政府の統一見解を示す役割を担うことから、政府の「憲法解釈の番人」と呼ばれている。そして、法制局長官は憲法の解釈について国会で答弁し、その精緻な積み重ねが政府の見解となってきた。過去60年、内閣法制局長官は、法解釈の継続性や職務の専門性に基づき、同局の法制第一部長を経験した内閣法制次長が昇任するのが慣例であった。法制局の経験がなく、しかも外務省から長官が起用されるのはきわめて異例である。集団的自衛権行使の容認に向け、従来の慣例を破ってまで強権的に人事権を行使したことは明らかである。

(引用終わり)


 こちらの社民党の談話からわかるとおり、異例の人事、しかも財務省をしのぐと言われる最強官庁・内閣法制局の人事に介入したのです。参議院選挙後の安倍総理の力が絶頂の時のことです。しかし、消費税を延期できず、国会は秘密保護法国会と化し紛糾している間に何が起こっていたか。

【国益より憲法-検証・内閣法制局(上)】首相に逆らう法の番人「憲法守って国滅ぶ」2013.11.26


(記事より引用)

 19日夕、東京・霞が関の中央合同庁舎4号館。最上階の会議室に、内閣法制局長官経験者らが集まった。

 現役幹部を交えて意見交換を行う恒例の「参与会」のためで、この日のテーマは「携帯電話のクーリングオフ」。クーリングオフとは契約書を受け取った日から一定期間は契約を無条件で解除できる制度のことだが、首相の安倍晋三が8月に駐仏大使から抜擢(ばってき)したばかりの長官、小松一郎は目立った発言をしなかった。

 「(法律の)技術的な話がほとんどで、小松氏は議論についていけていないようだった」

 出席者の一人は、そのときの小松の様子を“上から目線”で振り返った。

(引用終わり)

 陰湿ないじめです。何とか小松長官を追い出そうということでしょうか。外交官出身で国際法に詳しい小松長官が「携帯電話のクーリングオフ」についてわからないと言って、批判される筋合いはないはずですが。結局、首相の力が強ければ言うことを聞く役人も、首相の力が弱ければそれまでです。

 小松長官は末期がんでした。それでも何とか安保法案を成立させようとしていたのですが、野党からもひどい攻撃を受けることになりました。

 共産党の小池晃氏は小松長官を「安倍政権の番犬」と揶揄しました。

小松法制局長官「安倍政権の番犬」に反論 2014.3.5

 毎週月曜日に治療することが決まっている小松長官が国会に出てこないことに対して、民主党の尾立源幸氏は「職務を果たしていない」と批判しました。

がん患者は「職務不能」なのか 小松長官批判した民主党議員に反発の声 2014.03.31

 安全保障関連法案は平成26年5月14日に閣議決定しましたが、その直後に小松長官は退任。後任には横畠裕介氏が付きました。その後小松長官は6月23日に亡くなりました。

 後任に就いた横畠氏とはどのような人物なのか。もともと前の山本庸幸長官が退任したら彼が長官になるのが順当な人事でしたが、第一次安倍政権のときから因縁のある人物でもあります。

≪罪深きはこの官僚≫横畠祐介(内閣法制局内閣法制次長)「憲法の番人」復活を画策する次期長官

(記事より引用)

 横畠は検事出身で一九九九年八月に法制局に出向、総務主幹、第二部長を歴任し、「次の法制局長官が確実視されたエース」(法制局関係者)だ。過去にも、安倍晋三内閣が集団的自衛権の行使容認を目指して懇談会を設置した際、第二部長だった横畠は、当時の法制局長官の宮崎礼壹とともに「強引に推し進めれば辞表を出す」と迫った過去がある。

(引用終わり)


 結局、平和安全保障法制の集団的自衛権の解釈が内閣法制局の手の平の上で終わったことは以前当ブログで指摘した通りです。

ニコニコ生放送 【安保法制】次世代の党 和田政宗 vs 憲政史家 倉山満 対談生中継 を見て ~安保法制に関する誤解とは

 そして財務省人事に関してはどうでしょうか。現在の財務事務次官の田中一穂氏は第一次安倍内閣の首相秘書官だった人物です。この人事に対して高橋洋一氏はこう言います。

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 安倍首相が「力」を見せつけた 財務省次官「異例人事」の深層2015/7/ 9

(記事より引用)

今回の人事は、安倍首相の人事だ。安倍首相は以前から、(新次官となった)田中一穂氏を次官にするとしばしば漏らしていたが、これは、田中氏の力量を買っての意見ではなく、安倍首相自らの政治力を示したい意図が透けて見えている。

「これが安倍首相の人事力なのだ」と見せつけられ、財務省は、最も嫌う増税を延期させた安倍政権の力を認めざるをえず、異例中の異例の人事を受け入れている形である。

官僚が一番嫌うのが、人事介入である。これまで、実際の権限者である大臣をさしおいて、官僚だけで人事を取り仕切ってきた財務省までもが、とうとう政治家の人事介入を許してしまったというのが、今回の同期3代という異例の人事なのだ。そもそも、マスコミが使う人事介入という言葉が矛盾している。本来の人事権者である政治家が人事をいうと「介入」と言われることが不思議だ。

(引用終わり)


 これには少々首をかしげざるを得ません。この発言になぜ疑問を持つかと言えば、田中一穂氏が去年事務次官になったことは、彼がその前の年に主計局長になった、それを思えばもうこの時点では順当な人事だったからです。

事務次官に香川氏、財務官に山崎氏が昇格=財務省幹部人事2014年 07月 4日

 木下、香川と54年組の次官が続く、そして主計局長に田中氏がなった。主計局長が次の事務次官になるのは順当なのでこの人事は同じ年次から3人続けて次官コースに乗るという極めて異例な人事です。この時点で田中氏が次官になることはほぼ確定です。それなのに、なぜ次の年に田中主計局長が財務事務次官になったのを異例な人事だと言うのか。この時、高橋氏がそれを言っていたのなら、話は分かるのですが、少なくともネットの文字媒体ではそのような記事は見つけられませんでした。

 そして、この香川財務事務次官、田中主計局長が決まる少し前に一部でこのような報道がありました。

消費増税牽引で異例の同期「3人次官」=財務省「サプライズ人事」の知られざる裏側2014/06/13 11:27

(記事より引用)

安倍官邸に恭順の姿勢を鮮明にした財務省

7月に発令される財務省人事で、異変が起きた。木下康司事務次官(79年入省)が勇退し、香川俊介主計局長が次官に昇格するまでは既定路線だが、安倍首相に近い田中一穂主税局長が次期次官含みで主計局長への横滑りが内定したのだ。

(中略)

こうした過去のトラウマを教訓に、同期2人次官の規定路線に沿い香川次官を先行させるが、「財務省としては安倍首相に近い田中主税局長をも次官にすることで官邸への恭順の意を示したい」(ある官邸関係筋)。これが今度の財務省次官人事の真相である。

(引用終わり)


 安倍総理への降伏とも偽装降伏とも取れる記事です。しかし、これは正式な発表前のリークで菅官房長官はこれを否定します。

中国戦闘機の自衛隊機への異常接近、許しがたい行為=菅官房長官 2014年 06月 12日

(記事より引用)

財務次官の人事が一部で報道されたことについては「理解できない。人事局が発足し、いま資格審査を行っている。人事のリストはまた上がってきていない」と語った。

(引用終わり)

 内閣人事局がどのようなシステムになっているかはこちらをご覧ください。

幹部職員人事の一元管理

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 そしてリストがまだ上がってきていないと官房長官が言っていたにも関わらず、最終的にはリークされた通りの人事になりました。これが何を意味するのか。

 これの答えともいうべき記事が去年、週刊文春7月23日号、7月30日号に掲載されていました。54年組に関する綿密な取材で、公務員試験の順位まで掲載されています。財務省内の人間ドラマとも取れる大変面白い記事でした。その中から長いのですが引用します。

(7月30日号 財務省「最強世代 54年組」の研究 後編 岸宣仁より引用)

 一方、田中は国税庁次長から理財局長に転じ、主税局長となった。この時点でも木下と香川が同期次官、田中は国税庁長官という既定方針に変わりはなかった。
 だが、平成二十四年十二月に自民党が総選挙で圧勝し、安倍が首相に返り咲く。
 二十五年六月の財務省人事。主計局長の木下が次官に昇格し、五十四年組から初の次官が誕生した。主計局長に香川。ここまでは順当だった。問題は、主税局長に田中が留任したことだ。
 実はその二ヵ月前、ある人事が発令されていた。田中が就くと見られていた上がりポストの国税庁長官に、一期下の稲垣光隆が就任。逆転人事だった。官房長官の菅義偉は、この頃周囲にこう洩らした。
 「これは財務省へのメッセージだ。一期下を国税庁長官にして、田中を主税局長に残した意味を考えろ」
 財務省の出方次第では、香川を飛ばして、田中次官もあるとのメッセージだ。

 平成二十六年四月、野田政権下で成立した法律に則り、消費税は八%に上がった。だが、安倍政権は有識者六十人から意見聴取するなど、最後まで財務省に言質を与えなかった。官邸から見れば、消費増税に邁進する財務省はアベノミクスの“抵抗勢力”だった。その親玉は、消費増税の功労者・香川だ。安倍政権に逆らうなら、人事に手を突っ込む――。平成二十六年夏の定期人事をにらんで、官邸と財務省との駆け引きが続いた。
 安倍が「田中を絶対に次官にする」と明言したとの情報が次官OBを通じて伝わり、財務省は震撼した。
 前出の田中の元部下は、こう洩らした。
 「僕は田中さんが好きだし、次官になってほしい。でも、香川さんが次官になれずに、田中さんが次官になったら、財務省は終わる。そうなれば、みんなが上に気に入られることばかり考えて、目立たない仕事に汗を流さなくなる。香川さんが一番仕事をしたことを、皆がよく知っている」
 最高権力者の安倍が田中次官と言う以上、もはや、落とし所は戦後初の同期三人次官しかない。だが、有力OBが懸念していたのは順番だった。先に香川を次官にしなければならない理由があった。
 香川の体調である。香川は、消費増税に関する三党合意がまさに佳境を迎えようとする頃、食道ガンという病魔に冒され、暫く戦線離脱を余儀無くされた。
 手術は無事成功したものの、術後の体力回復には時間がかかった。当時の彼を知る誰もが指摘するように、「ガリガリの身体で、自らの生命を削るように議員会館を根回しに走り回る姿」は、悲壮感さえ漂ったといわれる。
 田中が先に次官になった場合、翌年夏に香川は次官を務められる体調ではないのではないか。そんな予感が財務省関係者の間にはあった。
 ここで、もう一人の五十四年組が登場する。

 加藤勝信。旧姓・室崎。昭和五十四年に大蔵省に入省し、防衛担当の主査などを務めた。自民党税調の大物として知られた加藤六月の娘と結婚して、政界に転じ、第二次安倍政権が発足すると官房副長官に就任した。
 加藤は平成二十六年五月末に誕生し、国家公務員の幹部人事を司る内閣人事局の初代局長にも就いた。
 政界に進んでからは、敢えて財務省の族議員とはならず、厚労族となった加藤だったが、五十四年組の同期会には顔を出していた。特に、木下とは親しかった。
 田中次官が取り沙汰されるようになった頃、木下、香川、田中、加藤は四人でよく会っていた。ある時、田中はこう言ったという。
 「香川を差し置いて次官になれというなら、オレは財務省を辞める」
 財務大臣の麻生太郎は、財務省の総意を受けて動いた。麻生は、安倍が言うことを聞く数少ない政治家の一人だ。麻生が安倍に示した人事案には、こうあった。
事務次官 香川俊介
主計局長 田中一穂

 二十六年七月、財務省人事は決着した。主税局長の田中が主計局長に回り、次期次官を確定させた。戦後入省者で、主税局長から主計局長への横滑りは初めてのことだ。
 内閣人事局長の加藤が、三人次官の流れを確実にするうえで一役買ったことは、想像に難くない。官邸と財務省の顔が立つ同期三人次官は、人材豊富な五十四年組だから可能だった。木下は、同期についてこう語っている。
 「僕たちの同期というのは二十八人いましたが、一人自殺しました。(略)そのとき、我々の同期で、偉くなることより大事なことがたくさんあるという話をしました。我々の同期は、月に一回、同期会をやることで有名な期でして、非常に仲がいいのだけれども、そんなことがあって以来、同期でポストがどうのこうのと一回も話したことは無いですね」(前出の研修で)

(引用終わり)



 この一連の動きをどう見るか。もし安倍総理が本当に強かったら、香川氏の前に田中氏が財務事務次官になる可能性もあった。しかし、財務省も一筋縄ではいかない。官邸の手が入る前に(安倍首相の意向をくんでいることを匂わせる)情報をリークして筋道を作り、最終的には田中氏を次の次官にするということで官邸を納得させた、そのようにも読めます。

 官邸がどのくらい強いのか。それを確かめるには公明党、内閣法制局、財務省との力関係、それを見極めないと本当にどちらが強いのかは判断の難しい所ではあると思います。

 財務省が強いのか安倍首相が強いのか。私としては何としてでも消費増税10%は止めていただきたいのですが、そのためにはどうしたら良いのか。あの8%増税の時のような悔しい思いをするのは御免ですが、景気回復はあくまで手段であり、消費増税が景気を冷やすことがわかりきっている今、出来れば解散総選挙のような最終手段をとるのではなく、総理の決断によって増税を阻止してほしい。そして、力強く国民のための政治を行っていただきたいと思います。
 そして政治の質は国民の質です。政治家に正しい政策を進めてもらうには国民も賢くならなければならないと思います。おかしな言説に騙されないようにするにはどうしたら良いのか。この動画はそのためには本当に基本的な知識と物事を正しく見極める目が必要だということに気づかせてくれます。

 今回でいったんこちらの『増税と政局』のシリーズは終了いたします。また本当の政局になったら、それに応じて記事を書きたいと思います。
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富山市在住。夫と息子、猫2匹と暮らす会社員。

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